当院では婦人科系の疾患と鍼灸について研究しております。

このページは女性の更年期と更年期障害、鍼灸(ハリ、キュウ)に関するページです。

更年期とは

更年期とは女性ホルモンが減っていき、閉経するまでの時期です。

卵巣の働きが低下するため、エストロゲンなどの女性ホルモンの量が減り、妊娠しない体へと変化していきます。

たいてい月経周期に変化が起こり、個人差はありますが数年で閉経します。

更年期障害とは

悩む女性

更年期による体の変化により、日常生活に支障をきたすようなら、「更年期障害」と診断され、治療が必要になります。

厚生労働省の情報サイトでは、以下のように説明されています。

男女ともに40歳を過ぎた頃から見られる、様々な体調の不良や情緒不安定などの症状をまとめて更年期障害と呼びます。

女性の場合は、閉経期前後の約10年間に卵巣ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少することによって症状が現れます。男性の場合は、30歳以降睾丸ホルモンであるテストステロンの分泌が減少し始め40歳代後半で症状が現れることがありますが、女性の場合と較べ分泌量の変化が緩やかなため老化現象の一部と認識されて気付かれないことが多いと見られます。

症状としては自律神経失調症と同様の症状が現れます。

厚生労働省情報提供サイトe-ヘルスネット

更年期障害はいわゆる女性ホルモン、エストロゲンが減少することに加え、女性脳下垂体から出る卵胞刺激ホルモンが卵巣にエストロゲン(女性ホルモン)の分泌を促しているのに、卵巣は機能が低下しているので分泌が十分でない、すると卵胞刺激ホルモンがこれでもかと更に増え、体全体のホルモンバランスが崩れる為に起こる様々な症状。多くは閉経前後2~3年続きます。

どんな人がひどくなりやすい?

3つの要素があると言われています。

◎エストロゲンの減少
◎日常のストレスや生活習慣
◎性格的な素因 (神経質、依存的傾向、完璧主義など)

卵巣に問題がなくても起こる

卵巣に問題がなくても、社会的なストレス、疲労が極度に達し、体が悲鳴を上げる形で症状が出ている場合が少なくないと思います。
ご家庭や会社等、そちらのほうがむしろ影響大なのでは?と感じるケースには、日常本当によく出会います。

実際、症状と血中のエストロゲンの量は比例しません。

更年期障害のいろいろな症状

生殖器系の症状

月経不順 無月経 外陰部の乾燥 性交障害 乳房が小さくなる

血管の機能不調による症状

ホットフラッシュ のぼせ ほてり 多汗 冷え

代謝異常による症状

肌が乾燥 シワ シミ 薄毛 体毛が濃くなる

自律神経系の不調

憂鬱感 イライラ 不安 めまい 吐き気 不眠 手足のしびれ 肩こり 腰痛 むくみ 頻尿 息切れ 動悸

更年期かも、でもどうしたら?

「更年期障害かも」と思ったら、婦人科へ行って検査をしてもらえば安心です。

甲状腺の異状など、更年期障害の症状とよく似ている病気もたくさんあります。更年期になる世代はほかの病気もしやすい時期です。鍼灸院に行くのはその後でも遅くありません。

ホルモンの数値と症状は比例しないものです。
もちろん、ホルモンに異常があってもなくても、自律神経のバランスの乱れからくる症状には鍼灸はおすすめできます。

ホルモン補充療法

婦人科ではホルモン補充療法が一般的なようです。女性ホルモンを飲み薬や貼り薬などで補充して体の変化の勢いを和らげようとするものです。

鍼灸でどんな効果が?

鍼

鍼灸というと肩こりや腰痛のイメージが一般的ですが、実際には古くから実に様々な病気や症状の治療に使われてきました。

更年期障害によく見られる、のぼせ、うつ症状、不眠やストレス、肩こりはもちろん鍼治療に効果があります。

アメリカの実験では、足のツボにお灸をしたら血中の女性ホルモンが増加したそうです。

このように鍼とお灸の刺激で更年期の体の変化を緩やかにしながら不快な症状を軽減することができるのです。

鍼灸でなぜ効くの?

人間には体に受ける様々な刺激に対して無意識に起こる「反射」という性質があります。

例えば、寒い時に鳥肌が立つように、暑い時に汗が出るのと同じように、体の刺激に対していろいろな反応をおこします。

鍼とお灸に効果があるのはこうした人間の生理的な反射によるものです。

国内外の研究でも、鍼をした時に脳の血流が急激に変化したり、内臓や血管の働きに影響することが分かっています。

東洋医学では

東洋医学でも古くから女性特有の疾患に対しての取り組みがされてきました。とはいえ、更年期に関しては現代ほど患者数は多くなかったでしょう。
平均寿命が今よりもうんと短いからです。
しかし古い書物にも「経水断絶」「絶経」「経断」などの記載が見られ、閉経を意味するものと考えられています。
「更年期障害」というのは現代の医学での病名で、東洋医学はまたちがう視点から人を見つめます。
「血の道症」「心腎不交」「肝腎陰虚」「陰陽両虚」など更年期障害の方に対してだけでもいろいろな分け方がされています。
(更年期でなくてもこれらの分類に入ることがよくあります)

更年期の大きな要素としては、東洋医学で言う五臓六腑の一つ、「腎」(生殖に関わる臓、腎臓とは少し違う)の働きの低下を大きな要因と考えます。

例えば、

腎には体を温める機能と熱を抑える冷却水の働きの二つの顔があります。更年期障害からくるのぼせなどは腎の冷却機能の不調と考える場合が多いです。イライラする、頬が赤くなるなど体の上の方に熱気がのぼっているような印象です。

陰陽

陰陽陰虚

他にも、「肝」肝は気血の流れをよくする働きがあります。弱ると気の流れが悪くなり、(この場合の気の流れが悪いというのは、体が硬くなるというようなニュアンスで捉えてください)肩こりや腰痛が起こり、血液の循環が悪くなり、痛みとなります。気の流れは精神活動でも重要なので、憂鬱、不安、怒りっぽくなる、眠りが浅い、寝つきが悪い等の症状も出てきます。

大きく分けて3タイプ 鍼灸では人それぞれ

出やすい症状ごとに分けてみました。実際は複雑に絡み合いますが傾向はなんとなくわかると思います。

東洋医学からみた分類です。実際はもっとあるんですが、特に特徴的かな?と思う3つに絞ってみます。

この分類は鍼灸や漢方で治療する際にはとても重要です。

「更年期障害にはこのツボ!」という風にツボを選ぶのではなくて、個人個人の体質に合わせて選んでいくことが大切だからです。

実際にはもっともっと細かく観察し、ツボを選んでいきます。更年期障害の方が10人いればそれぞれ治療内容は異なります。

冷却できない腎陰虚

のぼせ女性

足腰がだるい、腰痛、めまい、手足のほてり、顔のほてり、冷えのぼせ、寝汗、皮膚乾燥、そわそわする、ドキドキする等
の症状が出やすい。

「腎」はさっきも書きましたが、腰や生殖、活力や温度調整などと関係があります。
東洋医学では、腎には「陰」と「陽」があり、これは陰が弱っている方です。腎陰虚とは、腎の陰が「虚」少ない、足りないという意味です。
上にある火と水の絵がぴったりです。
「腎の陰」を補う(機能の回復)鍼灸治療をしていきます。
「腎兪」「照海」「尺沢」等の経穴を組み合わせます。

パワー不足の腎陽虚

腎陽虚

疲労感、息切れ、腰痛、腰の冷え、手足の冷え、下痢、むくみ、頻尿等の症状が比較的出やすく、特に疲労感が特徴です。
上記の腎陰虚とは逆に腎の「陽」が少ない、足りないという意味です。「陽」はあたたかいエネルギーです。活力そのものですから、足りないと元気が出ないわけです。
腎の陽を補う鍼灸です。
「関元」「足三里」「命門」等をよく使います。
お灸が大変役に立ちます。

イライラカチカチの血虚肝欝

怒り9

憂鬱、イライラ、胸や脇腹の張り、頭痛、肩こり、耳鳴り、不眠、不安、冷えのぼせ等に偏りがちで、特に気分的な症状が強いことが多いです。怒りっぽかったり、イライラしてばかりいたり、寝つきが悪い人も多いです。

精神的にスッキリしないのは、この場合東洋医学で言う「肝欝気滞」が原因です。
「肝」は五臓六腑の一つで、全身の気の流れをよくする役割があります。
ここで言う気の流れが悪いというのは、精神的な抑うつと、体の筋肉の緊張感です。体が全体的に固くなり、力が抜けていないような状態です。
更年期の体の変化によって体の「血」(東洋医学で言う「血」にはいろいろな種類があり、その役割も様々です。単に血液量が少ないとかそういう意味ではなく、概念的なものです。ただ、この場合の「血」は、ホルモンと関係が深いと考えています)が不足しがちになることで「肝」の働きが悪くなっていると考えます。
気と血の循環を図ります。
「太衝」「合谷」「三陰交」「血海」等に鍼をします。
肩こりも憂鬱感も次第に楽になってきます。焦らないことが肝心。

どうやって分類するか

東洋医学には古くから伝わる四診という判断方法があります。

詳しくお話を聞きながら、舌診、脈診、触診等を丁寧に行いその都度効果を見ながら慎重に見立てをしていきます。
これによって上記のような分類がされます。
これを「証」といいます。
東洋医学では本来、「更年期にはこのツボ」だとか、「お腹痛にはこのツボ」というようなツボの選び方ではなく、この「証」にそってツボを選んでいきます。鍼灸で使うツボには全てそのツボを使う意味があります。

名人の更年期鍼灸。老中医はどうするか?

ここで、中国でも高名な老中医(東洋医学専門医を中医、その中でも特に尊敬を集める中医師を老中医といいます)
邱 茂良先生の処方を見てみましょう。

邱 茂良 南京中医薬大学教授 付属医院主任医師

( )でくくってある部分は私の解説です。

調理衝任法

(調理は整える 衝任は体の前を通る月経や生殖器と関わりの深い衝脈と任脈二つの経絡の名前です。
「衝脈と任脈はバランスを取り合っているものなのですが、そのバランスが乱れているので調整しましょう」
という意味です。)

関元(三陰経と任脈が交わるところ) 気衝(衝脈の出るところ、関元と合わせることで気血を理する) 三陰交(三陰経が通るところ。調和させる) 命門 太渓

肝欝(精神的なストレスが強い時は) 太衝 肝兪 を追加
脾虚(胃腸や消化器系が弱っていたら) 脾兪 足三里 を追加

参考文献:中医針灸学の治法と処方~弁証と論治をつなぐ 東洋学術出版社

さすがは老中医ですね。使われているツボは特殊なツボでも珍しいツボでもありません。鍼灸師なら誰でも知っているツボばかりです。
しかし当たり前のツボをきちんと使う人ほど腕がいいものです。

当院での実際の鍼灸一例

当院ではどのようにするか、これも人によってそれぞれなのですが、
一例だけあげてみます。

40代女性

婦人科で更年期障害と診断され、漢方薬と併用して鍼灸を受けるために来院。めまいと耳鳴り、言いようのない不安感で特に電車に乗るのが怖い。寝つきが悪く、寝ても眠りが浅い気がする。肩が凝ったり頭痛がするのは常に感じる。

前述の腎の問題と、衝脈の問題と思われました。
陰と陽どちらも少なくなっている状態です。

仰向きで、神門 太渓 太衝に鍼 湧泉(手足の経穴です)に温灸をしました。
うつ伏せで 風池 肩井 神道 腎兪 次髎(頭の後ろあたしから腰にかけての経穴です)に鍼
大椎 至陽 命門(背骨のラインにある経穴です) に温灸(熱くないお灸です) 志室に知熱灸(ちょっと熱を感じたらすぐ取るお灸です)

二回目の鍼灸をして症状は軽くなり、五回の鍼灸でほとんど症状がなくなりました。漢方と併用なのもありますが、非常に喜んでいただけました。

お灸と指圧でのセルフケア

スッキリ良くなったイメージ

プロの鍼灸師にしてもらうのが一番ですが、事情があって通えない方には、自宅でお灸や指圧をするのもオススメです。

更年期障害のセルフケアお灸 おすすめツボ

セルフケアのお灸としてはせんねん灸等を使ってください。薬局で売っています。

湧泉
腎兪または志室

更年期障害セルフケア指圧

指圧は強すぎにならないよう注意

太渓
太衝
照海
腎兪から次髎
ダン中 期門

まとめ

更年期とは誰しも通る道であり、更年期障害はそれに伴う不調です。

更年期障害かな?と思ったら、婦人科で診断を受けましょう。当院では婦人科と並行して通院される方も多くいらっしゃいます。

例えば、腰痛などで鍼灸院に通院する場合でも、ホルモン補充療法を受けているとか、更年期障害で治療中だとかは伝えておきましょう。腰痛に鍼治療する場合でも、大いに参考になります。女性特有の疾患に対しても鍼灸は有効です。

卵巣自体の問題より、「頑張りすぎ」の可能性もあります。無理はしないで。

一口に更年期障害といってもその症状や体質は人それぞれ、鍼灸ではそのひとにあわせてオーダーメイド的に治療します。一人として同じ人間はいないのですから。

今日も大阪池田市からお送りしました。ご縁があればお会いできる日が来るかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願い申し上げます。

池田市の鍼灸南天では、
さまざまなお悩みに取り組んでいます。

肩こりはもちろん得意ですが、
なかでも、
頭痛、坐骨神経痛、
メンタル(パニック障害やうつ)、
婦人科(生理痛や不妊症等)

には当院の鍼灸をぜひお試しください。
池田市以外にも豊中市、川西市、箕面市、宝塚市など
大阪府北摂地域全域から多数ご来院頂いております。
池田市の鍼灸(はり・きゅう)南天