目次
男性の不妊症と東洋医学
男性の不妊症に対する鍼灸治療の考え方等をなるべくかいつまんでご説明いたします。
精子の数が少ない、精子の運動率が悪い、精子の形態異常といった精子に問題があって妊娠できないケースを男性不妊といます。このような場合精子が卵子までたどり着くことができず、またたとえ卵子に会えたとしてもなかなか妊娠が成立しません。
代表的な男性不妊症
その原因には精巣で精子が作られる過程で何らかの問題が生じ、十分な精子が作られない場合や精子を運ぶ過程に問題がある場合などが挙げられます。
精子の状態を調べるために行われるのが精液検査です。
正常な精液検査の基準値
精液量1.5ミリリットル以上
精子濃度1ミリリットル中2500万個以上
1ミリリットル中に3,900何個以上
運動率前進する精子が40%以上または高速で直進する精子32%以上
正常形態率4%以上
生存率58%以上
ストレスが強かったり、寝不足だったりした場合には精液検査の結果は悪くなります。
乏精子症
造精機能の問題で、精子の数が少ない場合。鍼灸で改善する場合があります。
無精子症
精液中に精子が少しも見られない場合
残念ながら鍼灸では改善しません。
(精液検査で一時的に結果が悪かった場合はここには含まれません)
精子の運動率の問題
前進、または高速で直進する精子が少ない場合
鍼灸で改善する場合があります
精子の奇形の問題
奇形の精子が多く、正常形態精子率が4パーセント未満の場合
これも鍼灸で改善した例があります。
逆行性射精
精子が膀胱側に射出されるのを逆行性射精といいます。こうしたケースの場合、鍼灸では効果が見られません。
尿中から採取した精子を使って顕微授精をすることが多いようです。
精路通過障害
精子の通り道に異常がある場合
これも鍼灸は適応しません
東洋医学で考える男性不妊の原因
同じ男性不妊でも東洋医学では人それぞれ違いますが、
大雑把によくあるものを分類してみます。
腎虚
東洋医学では五臓六腑という体にとって大切な要素があると考えています。
これは内臓と関係していますがイコールではなく、もっと広い意味があります。
肝・心・脾・肺・腎で「五臓」となるのですが、
生殖能力と最も関係が深いとされるのが
「腎」です
腎は簡単に言うと生命力をためておくところです。
腎の機能が落ちて生命力が少ない状態を「腎虚」といいます。
疲れやすい
気力がない
足腰がしっかりしない 腰痛など
抜け毛が多い・毛につやがない・白髪
等の症状が出やすくなります。
自分の生命力が足りないときに新しい生命を作る方にまで力が回らないという事です。
腎陽虚
上述の腎虚が少しすすんで、冷えの症状が強くなってきた場合このように言われます。
からだを内側から温めるエネルギーが足りない状態です
腎陰虚
腎虚のさらに進んだ状態で、腎の「陰」の部分が足りなくなった状態です。
腎陽虚と違って逆にのぼせたり、不眠になったりします。
肝鬱気滞
精神的なストレスによってリラックスできなくなった状態です。
常に必要以上に力が入っていて、イライラしやすかったり、寝つきが悪くなったり、体に痛みが現れたりします。
オ血
「古血」とも言います。気の流れが悪い(ここではリラックスできないという意味です)状態が続くと、気の流れに続いて血の流れが悪くなります。血の流れが悪くなることで血液的な老廃物ができた状態をイメージしてください。
ここで言う「血」とは肉という意味を含みます。
長い間血流が悪くなると肉体の質に影響します。
湿・痰濁
体の中に水っぽい老廃物(脂も含む)が溜まった状態。
オ血と同じで、外に出してしまった方が良いのに体の中にたまっているものです。
過食や脂っこいもの、味の濃いものをたくさん食べるとできやすくなります。
精液の色等による影響
精液の色は近代医学的には関係ないとされています
東洋医学では精液の色にも意味があると考えられています
精液の色が黄色い
濁精と呼ばれます
体の中に老廃物(東洋医学では痰濁といいます)が溜まっている状態です。
精液の色が無色透明
清冷といいます。
これは冷えや、体の中の熱量不足と考えられます。
無色透明だからって精子がいないわけではありません。
生活で気を付けた方が良い事
飲酒
飲酒は湿・痰濁を生みますからほどほどに
喫煙
タバコは精子形成に非常に悪いと言われています。
禁煙したほうが良いと言われています。
劇的に改善するケースも多いようです
サウナ
湿・痰濁のある人にはほどほどならいいですが、
のぼせや、ほてりがある人にはむきません
ノートパソコンを膝の上に置いて仕事をしない
精巣は慢性的に温めすぎると良くないと言われています
過労を避ける
腎は生命力そのものですから、疲れすぎると減り、機能が落ちます。
寝不足や、ストレスも大敵です。
可能な限り養生しましょう。
鍼灸治療
鍼灸治療では無精子症を除く多くの男性不妊に良い結果が出ています。
上記の様な体質分けをさらに細かくし、個人の体質にあわせて鍼とお灸を使い分けていきます。
痛みは個人差がありますがほとんどの方はそれほど痛みは感じないとおっしゃいます。
ズーンと、重りがゆっくり乗るような心地よい響き(鍼が出す独特の感覚)があります
非常に細い鍼(日本製、使い捨て)を使いますので安心してください。
鍼灸はなぜ効くのか
鍼を体にさしてなぜ不妊治療になるのか不思議に思われるかもしれません。
すべては「反射」のなせるわざです。
人間を含む動物は「反射」によって様々な体の変化を起こします。
寒い時は鳥肌が立ちます。
これは自律神経が反射を起こして立毛筋という筋肉を収縮させて起こる「反射」です。
眼球を圧迫すると血圧が下がります
これも反射です
肺にいっぱいまで空気を吸い込むと吐き出すための筋肉の収縮が起こります。
これも反射です
我々は自分の意識しないところでよく反射を起こし、体の調整をしています。
鍼灸はこの反射、とくに自律神経の反射を利用して治療する方法です。
鍼灸治療でよく使うツボ
急脈
鼠蹊部にあるツボで、ある実験ではここに簡易的な温灸をするだけで精子量が増えた例があります。
関元
元気の関所という意味です。
疲れをとって、体を強くしてくれます。
不妊治療、妊活に子宝三穴
関元
八髎穴
仙骨には仙骨孔という穴が開いているのですが、それに沿うようにあります
骨盤内の自律神経を刺激することができます
合谷・内関・太衝など
様々な状況に応じて使い分けます。
精神的なストレスを緩和したり、肉体的な疲れをとる効果があります
合谷
自宅でできるお灸
急脈・関元
ここに温灸をするといいいでしょう。
毎日できるといいですが、二日に一回などで無理のないペースを決めて定期的にするようにすると良いと思います。
市販のせんねん灸などでも良いです。やけどに注意して、熱くなったら無理せずとりましょう。